スピノザと私たち」、『スピノザ―実践の哲学』所収、鈴木雅大訳、2002年、平凡社

スピノザにおける内在平面

スピノザの第三、第四、第五の原理
=「すべての身体や物体にとってただひとつの自然、無限に多様に変化しつつ自身もひとつの個体であるような自然」
→これはもう唯一の実体を定立しているのではない。すべての身体や物体、すべての心、すべての個体がその上にあるようなひとつの内在的な共通平面(プラン)を展き延べているのである。
こうした平面はどのようなものであり、どのように建設されるのか。


スピノザによるひとつの体〔corps〕の規定

①無限数の微粒子群の間の運動と静止、速さと遅さの複合関係。
→生のとるひとつの個体性を、形態の発展としてではなく、ひとつの内在的プランの上に成る速さと遅さの構成の問題として捉える。
②他の体を触発し、他の体によって触発される力(変様能力)。
→ひとつの身体や心は、実体でも主体でもなく様態である。ひとつの様態は、触発し触発される力として規定される。

したがって、動物であれ人間であれ、これをその形やもろもろの器官や機能から規定したり、主体として規定したりせず、それがとりうるさまざまな情動〔affect〕から規定するようになるだろう。


こうした情動群を分配している内在的プラン、自然の平面には、人工的のものと自然のものといった区別は存在しない。この自然の内在的プランの上では、どんなものも、それを構成するもろもろの運動、もろもろの情動の組み合い〔agencement〕によって規定される。


スピノザとユクスキュル

動物たちの世界を、それらのもつ情動群や触発しまた触発される力によって規定し、記述しようと試みる生物学者博物学
=J・フォン・ユクスキュル
「動物であれ人間であれ、その身体をそれがとりうる情動群から規定してゆくこうした研究にもとづいて、今日エトロジー〔éthologie〕と呼ばれるものは築かれてきた。
=必然的にこれはひとつの内在の平面、結構の平面の建設をともなっている。

エトロジーとは
①個々のものについて、固有の変動、変移関係や触発=変様能力の変移幅や強度閾についての研究である。
②相異なった個体間で、それぞれの関係が持つ力の間に成り立つ複合的構成を研究する。
=この行き方はまさしくスピノザ的である。

『エチカ』の各部分は、その相対速度が変化してゆき、第三種の認識にいたってついに思考の絶対速度に達しているからだ。


■内在的平面(プラン)
形をなしていない物質の微細な微粒子群のあいだに成りたつ速度の複合関係があるだけだ。ここにはもう主体はない。無名の力がとる、個体を構成する情動状態があるだけだ。ただ運動と静止しか、力動的な情動負荷しかとどめないこの平面は、それが私たちに知覚させるものと一緒に、それに応じて知覚されてゆくのである。